ボクサーものが続きますが、特にボクシングが好きなわけではなく、偶然です(笑)。
映画を見て感動したので、小説も読んでみました。
本の方に時間がかかったため、実際に映画を見たのは1ヶ月近く前になります。
まずは映画から。
■冤罪と戦うボクサーのお話■
ハリケーン
(1999年)
監督:ノーマン・ジュイソン
出演:デンゼル・ワシントン、ビゼラス・レオン・シャノンン他
お勧め度:
☆☆☆☆☆
keiさんと
g_gさんが「デンゼル出演の映画の中でも好きな作品」とおっしゃるので、早速見てみました。感動の嵐!!
【概要】
デンゼル・ワシントン演じる天才ボクサーのルービン”ハリケーン”カーターは、キャリアの絶頂で
「冤罪」によって投獄され、終身刑を言い渡される。ところが、牢獄で書き上げた自伝に影響された少年が、カーターを助けようと動き出す…という実話の映画化。
*上の写真は、ゴールデン・グローブ賞でのデンゼルと、映画のモデルとなった
Rubin Carter本人です。
【感想】
もともと単純な性格なので、この手の「実話」にはめっぽう弱いのです。無実の罪で20年も牢獄に入っていた・・・という事実だけで、もう泣けますね(^^;)。
「粗野なイメージの有名な黒人」というだけで、警察の目の敵となり、証言まででっち上げられて終身刑を言い渡されるとは、本当に恐ろしい話です。カーターは幸い、自伝を著述できるくらいの教養を身に付けたし、同時に名声のあった人なので支持者を得ることができたけど、ごく一般市民であった黒人たちも、同じように冤罪によって投獄されたのではないかと思うと、何とも胸が苦しく、やりきれない思いです。。。
刑務所の中では、本を読んだり物を書くことを生きがいにしてきたカーターですが、徐々に支持者も減り、意気消沈していきます。
Bob Dylanが彼のサポート・ソング
"Hurricane"(
試聴リンク)を作ったりしましたが、そういった有名人による応援も長続きはせず、彼のもとを訪れる人や、手紙をくれる人もいなくなっていき、後半は「もう塀の外に出ることなんかできない・・・」と諦めモードで気持ちが荒んでいくのです。
しかしそこに、カーターの自伝を読んで感銘を受けた若い青年が登場!手紙の交流を通じて本当の友情を感じ、自らも無罪放免へと希望を見出すエピソードなんて、フィクション顔負けのドラマティックさです。デンゼルの演技も素晴らしかったし、ラストも感動的です。
というわけで映画としては
5点満点!
未見の方にはぜひぜひ、お勧めしたい映画です。
しかし、「実話」となれば、途端に映画以外の部分の事実も知りたい・・・となる私。
というわけで、映画に感動しただけでは収まらず、本も読んでみることにしました。
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■美談だけでは済まされない現実■
講談社文庫
ハリケーン
(2000年)
著者:ジェームス・S・ハーシュ
映画の原作というより、細部に渡るドキュメンタリー。
500ページを超えるボリュームの文庫本です。
とにかく最初の200ページくらいは、カーターが巻き込まれた「ラファイエット・バー殺人事件」をかなり詳細に表記してあり、人物名・日付・時間ばかりが延々と並ぶため、ここをクリアするのは、ちょっとした労力が要ります。正直、次々と登場する証言者や検察官・弁護士などの名前は、ナナメ読みでした(笑)。だって、「表」にでもまとめない限り、全てを理解することはできないし。
*ボクサー時代のカーター
でも、映画にも登場したレズラやリサといった
カナダ人コミューンが出てきた辺りから、加速度的に面白くなってきました。「白人への復讐」を殺人動機に掲げ続けた検察側の主張が、映画でも登場する連邦裁判所の
サロキン判事によって覆され、長い裁判が解決の方向に向かう様は、本当に爽快!
また、カーターの内面的な変化、人間的な成長ぶりにも目を見張るものがあります。
*カーターが投獄されていたトレントン州立刑務所(ニュージャージー州)。実際に映画の撮影場所としても使われたそうです。
まずは
映画と違う事実から。
◆映画では、「レズラ少年との交流」がカーターの心を開いたことになっていますが、実際は、コミューンの女性リーダー、
リサ・ピーターズがカーターの救済の中心人物です。カーター出所後、ふたりは結婚します(後に離婚)。
◆カナダ人たちに出会う前に、一度、保釈されて家に戻った時期があります。しかし、やり直し裁判に負けたため、また刑務所に戻ることになったそうです。
*刑務所のカーターを訪問するボブ・ディラン
次に、小説を読んで
初めて知った事実。
1)ルービン・カーターと、映画「
遠い夜明け」で取り上げられた、南アフリカの黒人運動家
スティーヴン・ビコの間に交流があったそうです。カーターはピコのためにアメリカから武器の密輸をしたそうな(←犯罪じゃないですか;;)。つまりデンゼル・ワシントンは偶然にも、交流のあったこの著名人二人を演じたということですね。この映画のレビューは
こちら。
2)服役して間もない頃、ボクサー時代に痛めた目が網膜はく離を起こし、十分な施設で手術を受けられなかったため
「片目を失明」したらしいです。ちゃんとした外の病院に移すと「脱走」の恐れがあると思われたとか。それにしても、治療はちゃんとしなくちゃね。ひどい話だなあ(涙)。
3)カーターは、実際に粗野な言動が多く、人を信じられない頑固な性格であった。しかし、2度めに刑務所に入ってから、哲学書などを読むことによって、次第に改善されていきます。
4)出所後しばらくしてから、深刻なアルコール中毒になります。しかし、それも克服し、今は一切お酒を飲まないそうです。
5)カナダ人コミューンに救われ、カーターとも親交を深めたレズラ少年は、その後大学に進学し、なんと「検察官」になったそうです。しかし、映画公開後にまた立場が変わったそうで・・・彼の
サイトも見つけました。
*カーターとレズラ・マーティン(妙に派手なふたり:笑)
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長い長い刑務所での生活、屈辱的な人種差別に満ちた裁判闘争が終わり、ようやく落ち着いた環境に身を置くことができた、ルービン・"ハリケーン"・カーター。彼が犠牲にした28歳から49歳までの年月を思うと、まさに「悪夢」であったろうと思います。
*大学で講演をするカーター
・・・と、私自身も長い読書を終え、感激に浸っていたところ、
恐ろしいサイトを発見しました!!
ルービン・カーターは、裁判手続き上で「釈放」されたが、「無罪」と証明されたわけではないという主旨で、今なおカーターの有罪を信じる人物が運営しています。
デンゼル・ワシントンが、アカデミーで最優秀主演男優賞を獲得できなかったのは、「被害者側からの映画に対する抗議」があったからだとも言われているそうです。
犯罪現場の写真、裁判の記録、映画と事実との比較などを、怖いくらい詳細に並べています。
ご興味のある方は、こちらからどうぞ。
Hurricane Carter The Other Side of the Story
ちょっと映画に興味を持ち、本を読んだくらいでは、この事件について語ることなどできないと思うけど、私自身は、カーターの無実を信じたいと思います。
●白人が憎いから・・・というだけの理由で、
●見ず知らずの3人(女性も含む)を、
●プロのボクサーであった彼が、
●至近距離から「銃」を使って殺した
・・・というのは、全く納得がいかないからです。
最後にBob Dylanの歌「ハリケーン」より
Here comes the story of the Hurricane
The man the authorities came to blame
For something that he never done
Put in a prison cell, but one time he coulda been
The Champion of the world
しかし、「ラファイエット・バー殺人事件」の真犯人が、いまだにわかっていないことも事実です。