そういえば、漫画以外のブックレビューは初めてでした。
ぜひ紹介したいのが、この作品。
青山出版社からの
HipHopノベル第一弾です。
■ストリートの現実を描く超リアルな話題作■
ヴィッキー・ストリンガー ワケありってコトで
(2005年)
原題:Let That Be The Reason
麻薬取引で7年間服役した女性が、自分の体験を語るストリート・バイブルです。
【概要】
7年間の服役期間中に自伝小説の執筆を決意して、『ワケありってコトで』を書き上げ、大手出版社に企画を持ち込むがことごとく断られた末、自費出版に踏み切る。その後大きな反響に確信を得て、「トリプル・クラウン出版」を自ら設立し、その記念すべき第1作として改めて刊行。その後、彼女の本に感銘を受けた多くの服役者たちの作品等も出版し、ヒップホップ小説という新たなジゃンルを切り開き、会社設立後2年の間に彼女とTCPはアメリカ全土と海外で100万部以上の本を売り上げた 。
【感想】
写真の通り、著者は女性です。男性に捨てられ、幼い一人息子を抱え、これからどうやって暮らしていこうか・・・と考えた末に、最初は自らが売春、次に売春婦派遣の「エスコート・サービス」を始め、そしてついには麻薬取引に手を出していくストーリー。まさにヒップホップな世界です(笑)。
とは言っても、なんでもかんでも
HipHopって言葉を使えば売れるっていう戦略か?と思い、最初はあんまり期待しませんでした。原文が黒人のStreet Languageを使っているせいか文体も軽いし、お金がないからって「ヤクの売人」になるってのも、ありがちな話だよな・・・くらいの冷めた感覚で読んでました。
ところが、ラストはもう
号泣でした。本を読んで泣いたのは久々だったなあ・・・。
まずは、主人公(=著者)の魅力。
女性が売春婦を取り仕切るわけですから、そこには同性からの「信頼」を得なくてはならないわけなんですが、この人は本当に世話好きで姉御肌。女性からは信頼され、男性からも一目置かれるような、力強いキャラクターです。ビジネスセンスもあるし、立ち回りも賢い。
だからこそ、次は「麻薬」の話が舞い込んでくるんですけどね。。。
でも、ただ強いだけではなく、そこは女性だから弱い面もたくさんあります。
特に惚れた男性(子どもの父親)に対する彼女の思いは、第三者から見れば
「どうして、そんな非情な男に最後まで期待してしまうんだろう」って思っちゃうんですけど、そこが彼女の純粋さであり、良くも悪くもおバカさんな部分が、憎めないんだと思います。でも最後にはようやく自分の愚かさに気づき、彼に宛てた手紙を書いてるんですけど、それがまた泣けるんですよねえ・・・。
そして、何が何でも息子を守ろうとする
母性の強さ。惚れた男が不甲斐ないから仕方がないんですけど、どんなに忙しいときでも苦しいときでも、息子と過ごす時間だけは絶対に確保しようとします。それだけ息子を思っていた彼女が、最後には捕まっちゃって、7年間も刑務所暮らしをすることになるんですから、自業自得とは言え、やっぱ切なくなっちゃうんですよね。
で、ストーリーも十分に面白いんですけど、やっぱBlack Musicファンには嬉しい記述もたくさんあります。
以前はJazzが好きだった彼女が、「ストリート」に染まるのにしたがって、どんどんRapが好きになってきます。落ち込んだときのテーマ曲は、
2Pacの
Keep Ya Head Upだそうで。
そして、
Above the Rimのサントラは、「全部私が体験してきたこと」だし、
Naughty By Natureは「全て大丈夫だよって勇気を与えてくれる」そうです。
やっぱ、ストリートで生きるBlackの人たちにとって、いかにRapが身近なものかがわかります。
「
Bone Thugs-N-Harmony風のルックス」なんていう表現もあったりとかで、なかなか楽しいです。
ただね、ひとつ不満が。
私は、アーティスト名・作品名の表記に英語を使ったんですが、小説の中では全てカタカナ。「アバブ・ザ・リム」とか書かれると、一瞬なんのことやら・・・って思っちゃいます。縦書きの翻訳小説だから仕方がないんでしょうけど、「HipHopノベル」なんて銘打ってるんですから、ここは雑誌bmr風に、
横書き左開きの本にしてほしかったなあ・・・なんて、個人的には思いました。
それと、題名の「ワケありってコトで」っていうのが、妙にダサいなあ・・・と思ったんですけど、英語の
Let That Beという表現をやたらと使う売春婦の女の子がいて、それを「・・・ってコトで」と訳したために出てきた言葉なので、苦肉の策なんでしょう。
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ちなみに、著者のVickieさんが立ち上げたTriple Crown Publicationsの公式サイトは
こちら。Authorsのページを見てみると、見事にストリートを生きてきたと思われる、黒人作家がそろってます。Slangのお勉強にもなるので、原文でも読んでみたいところです。
とりあえず、日本語訳になっているのは、この本のほかに2作品。
今後もどんどん出てくるでしょう。
カシャンバ・ウイリアムズ
明日なんて見えない
トレイシー・ブラウン
黒蝶~ブラック・バタフライ
そのうち、こういった作品の中から、映画化されるものも出てくるかもしれませんね。